研究理念
金属イオンと有機架橋配位子を組み合わせて合成される金属錯体は、各々の出発物質には見られない 全く新しい機能を発現させることが可能です。特に、それらの性質を足し合わせた性質だけでなく、 出発物質には無かった新しい機能を発現する点に優れた特徴と興味があります。
また、生体系に存在する数多くの金属酵素の活性部位に見られる金属錯体が示す不思議な機能は未だ ほとんど解明されておらず、多くの謎を残した領域となっています。本研究室では、このような新しい 機能を発現する金属錯体の合成に着目した研究を精力的に行っています。
温度変化に応答してチャンネル構造を変化させる金属錯体
温度変化に応答してチャンネル空間を可逆的に変化させる高分子型金属錯体を世界で初めて合成しました。低温時にはチャンネルの大きさが狭くなる様子を単結晶X線構造解析によって捉えることに成功しました。
・ M. Kondo,* Y. Shimizu, M. Miyazawa, Y. Irie, A. Nakamura, T. Naito, K. Maeda, F. Uchida, T. Nakamoto, A. Inaba. Chem. Lett., 2004, 514-515. [DOI: 10.1246/cl.2004.514] ・ M. Kondo,* H. Takahashi, H. Watanabe, Y. Shimizu, K. Yamanishi, M. Miyazawa, N. Nishina, Y. Ishida, H. Kawaguchi, F. Uchida. Int. J. Mol. Sci., 2010, 11, 2821-2838. [DOI: 10.3390/ijms11082821]
溶媒の種類に応答してチャンネル構造を変化させる金属錯体
接触する溶媒の種類に応答してチャンネル空間を可逆的に変化させる高分子型金属錯体を見出しました。ジメチルホルムアミド(DMF)中ではナノスケールのチャンネルをもつ二次元構造を形成し、水中では細孔の無い二次元構造に変化します。この変換は可逆的に起こります。
・ M. Kondo,* Y. Irie, Y. Shimizu, M. Miyazawa, H. Kawaguchi, A. Nakamura, T. Naito, K. Maeda, F. Uchida. Inorg. Chem., 2004, 43, 6139-6141. [DOI: 10.1021/ic0496166]
さらに、この骨格を利用して、三次元的なナノチャンネル空間をもつ金属錯体の合成に成功しました。この錯体(右下図)の骨格の密度はわずか 0.53 gcm-3 しかありません。
・ M. Kondo,* Y. Irie, M. Miyazawa, H. Kawaguchi, S. Yasue, K. Maeda, F. Uchida. J. Organomet. Chem., 2007, 692, 136-141. [DOI: 10.1016/j.jorganchem.2006.07.048]
溶媒の存在に応答してチャンネル構造を再生する金属錯体
イミダゾールとカルボン酸部位をもつ架橋配位子を利用して金属錯体を合成すると、金属錯体同士が水素結合で連結された高次構造をもつ金属錯体を合成できることを見出しました。
・ M. Kondo,* E. Shimizu, T. Horiba, K. Nabari, Y. Fuwa, K. Unoura, T. Naito, K. Maeda, F. Uchida, Chem. Lett., 2003, 944-945. [DOI: 10.1246/cl.2003.944] ・ E. Shimizu, M. Kondo,* Y. Fuwa, R. P. Sarker, M. Miyazawa, M. Ueno, T. Naito, K. Maeda, F. Uchida, Inorg. Chem. Commun., 2004, 7, 1191-1194. [DOI: 10.1016/j.inoche.2004.09.008]
この合成法を用いて三次元的なチャンネル空間をもつ金属錯体を合成することに成功しました。この錯体はニッケル中心にメタノールが配位しており、これが全体骨格の一部として利用されています。加熱により、このメタノールを取り除くと、三次元骨格が崩壊してアモルファスになり、続いてメタノールを接触させると基のチャンネル構造が再形成します。アモルファス状の固体にエタノールを接触させても(EtOH)は取り込まれませんが、そこに、より小さな分子サイズをもつ MeOH を加えるとチャンネル細孔が再生し、EtOH が取り込まれるようになります。
・ M. Kondo,* T. Iwase, Y. Fuwa, T. Horiba, M. Miyazawa, T. Naito, K. Maeda, S. Yasue, F. Uchida, Chem. Lett., 2005 34, 410-411. [DOI: 10.1246/cl.2005.410]
溶媒の接触により固体構造を変化させる金属錯体
-C=N- 二重結合をもつ有機物はシッフ塩基と呼ばれ、金属錯体の合成に有用な配位子として知られています。この配位子を用いて、四核構造をもつ金属錯体や、そのシッフ塩基にヒドロキシ基を導入することで、水素結合により連結された金属錯体を得ることができました。
・M. Kondo,* Y. Shibuya, K. Nabari, M. Miyazawa, S. Yasue, K. Maeda, F. Uchida, Inorg. Chem. Commun. 2007, 10, 1311-1314. ・ M. Kondo,* K. Nabari, T. Horiba, Y. Irie, Md. K. Kabir, R. P. Sarker, E. Shimizu, Y. Shimizu, Y. Fuwa, Inorg. Chem. Commun. 2003, 6, 154-156.
さらに、エタノール中で合成して得た銅(II)錯体は、結晶溶媒の除去によりアモルファス(非晶質固体)となり、続いて種々の溶媒との接触により新しい結晶性固体に変換することを見出しました。興味深いことに、再接触させた溶媒は固体中には取り込まれておらず、この構造構築は速度論的に安定なある高次構造が、熱力学的に安定な別の高次構造に変化した結果であることがわかりました。
・ Y. Shibuya, K. Nabari, M. Kondo*, S. Yasue, K. Maeda, F. Uchida, and H. Kawaguchi, Chem. Lett. 2008, 37, 78-79.